「クラシックギターを習ってみたいんです。でも、楽譜も読めないし、ギターも持っていなくて……」
体験レッスンに来てくださる方の多くが、こう話してくれます。
ポップスの弾き語りではなく、ソロで奏でるクラシックギター。独特の落ち着いた音色に惹かれて、「いつかは」と思い続けてきた方が、実は少なくありません。テレビやラジオで流れてくる「禁じられた遊び」や「アルハンブラの思い出」を耳にして、いつか自分も、と心の片隅に置いてきた——そんな話もよく聞きます。
でも、いざ始めようとすると、わからないことだらけです。どんなギターを買えばいいのか、楽譜は読めるようになるのか、独学でもいいのか、何から練習すればいいのか——。
この記事では、クラシックギターを始めたいと考えている初心者の方に向けて、楽器選びから最初の1曲まで、知っておいてほしいことをまとめました。当教室でクラシックギターを習っている生徒さんの姿も交えながらお伝えします。生徒さんの半数ほどがクラシックギターに取り組んでいるので、年齢も動機もさまざまな方の様子をお話しできると思います。
読み終わる頃には、「自分にもできそうだ」と感じていただけるはずです。
もう一つ、先にお伝えしておきたいことがあります。クラシックギターは、欲張らない楽器です。大きな音も出ませんし、派手な衣装も必要ありません。一人で向き合う時間を、飾らない音で彩ってくれる楽器です。だからこそ、お年を召した方でも、社会人でも、忙しい毎日の合間に見つけてくれる人が多いのだと思っています。
この記事では、楽器選び、構え方、チューニング、右手・左手の基本、楽譜の読み方、最初の練習曲、練習時間の目安、独学の限界、挫折しない考え方、上達の道のり——という順番でお話ししていきます。長い記事になるので、気になる章から読んでいただいても大丈夫です。
そもそもクラシックギターとは?アコースティックギターとの違い
ギターと一口に言っても、種類はいくつかあります。街で見かける弾き語り用のギターは、たいていアコースティックギター(フォークギター)です。クラシックギターはそれとは別物で、見た目は似ていますが、構造も音色も、弾き方もまったく違います。
弦の違い:ナイロンとスチール
一番わかりやすい違いは、弦です。
アコースティックギターはスチール(金属)の弦を使っていて、明るく華やかな音がします。ピックで弾いてストロークすることで、歌の伴奏にぴったりの音が出ます。
クラシックギターはナイロンの弦を使います。柔らかく、温かみのある音色で、指の腹で弾くのが基本です。ピックは使いません。
弾いたときの指当たりもまったく違います。スチール弦は押さえるとき少し痛みを感じる方が多いですが、ナイロン弦は柔らかいので、指が痛くて続けられない——という声は、クラシックギターの生徒さんからはあまり聞きません。
ネックの太さと弦の間隔
もう一つ、大きな違いがあります。ネックの太さです。
クラシックギターのネックは、アコースティックギターより明らかに太く、弦と弦の間隔も広い。これには理由があって、クラシックギターは一人で「メロディと伴奏を同時に弾く」楽器だからです。右手の指で同時に複数の弦を別々に弾くので、弦の間隔が狭いと指が混線してしまいます。
ネックが太いと聞くと「押さえにくそう」と感じるかもしれませんが、実際は逆で、指を立てて弦を押さえるには、ある程度の幅があったほうが押さえやすいのです。
奏法の違い:ピックを使わない
アコースティックギターやエレキギターはピックを使うのが一般的ですが、クラシックギターは指で弾きます。親指・人差し指・中指・薬指の4本を使い、それぞれが独立した動きをします。
最初は「指4本が別々に動くなんて無理」と感じますが、これは誰もが通る道です。練習すれば必ず動くようになります——というと少し言い過ぎですが、時間をかければ、ほとんどの方が動かせるようになります。
「独奏」の楽器であること
クラシックギターはもともと独奏のための楽器です。ナイロン弦の柔らかい響きは、一人で完結する演奏にとてもよく合います。
「じゃあ、弾き語りはできないの?」とよく聞かれますが、できないわけではありません。ただ、クラシックギターの本領は、一人で完結する演奏にあります。ギター1本でメロディと伴奏を同時に奏でる——これは他の楽器ではなかなか味わえない魅力です。
クラシックギターを始める前に:楽器選び
さて、クラシックギターを始めるには、まず楽器が必要です。ここが最初の関門です。
体験レッスンに来てくださる方に「どのギターを買えばいいですか」と聞かれることが多いので、私が普段お伝えしていることをまとめておきます。30代・40代から始められる方も多いので、大人からギターを始める方の楽器選びという観点でもお話ししていきます。
予算の目安:5万円前後がおすすめ
結論から言うと、最初の一本は5万円前後をおすすめしています。
3万円以下の楽器は、正直なところ音も弾きやすさも厳しいことが多いです。ネックが反っていたり、弦高が高すぎて押さえられなかったり、チューニングが安定しなかったり。挫折の原因が「自分の下手さ」ではなく「楽器の悪さ」になってしまうと、もったいないです。
5万円前後になると、日本の老舗メーカーや、海外の熟練工房で作られたエントリーモデルが手に入ります。このクラスなら、長く弾いても嫌にならない音と弾きやすさがあります。
10万円以上になると音の違いははっきり出ますが、初心者の方が最初から用意する必要はありません。続けていくうちに「もっといい音で弾きたい」と感じてから、ステップアップすれば十分です。楽器は弾いた分だけ耳が育つので、「今の自分にはこの音が心地よく聞こえる」というタイミングで選ぶのが一番です。
サイズ:630mm vs 650mm
クラシックギターには「スケール」というサイズ規格があります。ナットからブリッジまでの弦の長さで、主に650mm(標準)と630mm(ショートスケール)の2種類です。
体の小さい方、手の小さい方、女性、そしてご高齢の方には、630mmを検討してみてください。フレットの間隔がわずかに狭くなるだけで、押さえやすさがまったく変わります。特に左手のセーハや、指が広く開くコードで、この差を実感します。
当教室の生徒さんでも、「650mmで挫折しかけたけど、630mmに変えたら弾けるようになった」という方が何人もいらっしゃいます。手の大きさは、ギターを弾けるかどうかを決める要素ではありませんが、自分に合ったサイズを選ぶことは大切です。楽器屋さんでは、どちらのサイズか見た目だけでは分かりにくいので、「これは何mmですか?」と聞いてみてください。
素材:松(スプルース)と杉(シダー)の違い
クラシックギターの表板には、松(スプルース)か杉(シダー)が使われるのが一般的です。
松は明るく澄んだ音がして、弾き込むほどに音が育っていくと言われています。新品だとやや硬く感じるかもしれませんが、時間とともに味が出ます。
杉は最初から柔らかく温かみのある音が出ます。すぐに「いい音」を感じやすいのは杉の方かもしれません。
どちらが正解ということはなく、好みの問題です。楽器店で弾き比べてみて、「こっちの音が好きだな」と感じる方を選べば大丈夫です。迷ったら店員さんに相談してみるのも良いと思います。
新品か、中古か
楽器屋さんで試奏して選べるなら、中古も選択肢に入れてOKです。クラシックギターは使い込むほど音が育つ楽器で、中古のほうがいい音がすることもあります。
ただし、初心者の方がネット通販で中古を買うのは避けてください。状態を見極める目がまだないと、ハズレを引く可能性が高いです。実店舗で、店員さんに相談しながら選ぶのが安全です。
最初に揃えておきたい付属品
ギター本体の他に、最低限揃えておきたいものがいくつかあります。
まずは足台。先ほど触れたとおり、クラシックギターは左足を乗せるのが基本なので、これが無いと構え自体が成立しません。クラシックギター専用の足台が2,000〜3,000円程度で買えます。
次にクリップチューナー。これもチューニングの章で触れますが、2,000円前後で十分です。
ケースは、ギター購入時にソフトケースが付いてくることが多いです。持ち運びが多い方はセミハードケースを別途購入されても良いでしょう。
譜面台もあると練習がぐっと楽になります。姿勢を正しく保つためにも、楽譜を適切な高さに置けることは大切です。
ここまで揃えても、ギター本体込みで6〜7万円ほど。大人の習い事としては、比較的スタートしやすい予算だと思います。大人からギターを始める方の初期投資として、参考にしてみてください。
体験レッスンで「どのギターがいいですか?」と聞いてくださる方には、できる範囲で一緒に選び方を考えます。最初のギターは長く付き合うものなので、焦らずじっくり選んでください。
最初に覚えてほしい「正しい構え方」
楽器が手に入ったら、次は構え方です。これが一番大事だと私は思っています。
というのも、構え方が間違っていると、そのあとの練習が全部ズレてしまうからです。左手で弦をうまく押さえられない、右手が安定しない、音がきれいに鳴らない——これらの問題の多くが、構え方に原因があります。
椅子の座り方と足台
クラシックギターは、椅子に座って、左足を足台に乗せて構えます。
椅子は、背もたれに寄りかからずに浅めに腰掛けるのが基本です。足が地面にしっかりつく高さが理想で、ダイニングチェアくらいが丁度いいことが多いです。柔らかいソファやキャスター付きの椅子は、安定しないのでおすすめしません。
足台は、クラシックギター専用のものが2,000〜3,000円ほどで買えます。高さが調節できるタイプを選んでください。最初のうちは「足台くらい無くても大丈夫では?」と思う方もいらっしゃいますが、足台があるのと無いのとでは、ギターの安定感がまったく違います。
ギターの角度とヘッドの位置
ギターのくびれた部分を左足の太ももに置いて、ネックを斜め上に立てるように構えます。ヘッドは、左に向けた目線の高さくらいに来るのが目安です。
この「ネックを立てる」というのが、クラシックギター特有の構え方です。アコースティックギターやエレキギターではもっと寝かせて構えることが多いですが、クラシックギターは左手の指を使いやすくするために、ネックを高く立てます。
右手・左手の基本フォーム
右手はギターの側板に肘をゆったり乗せて、手首から先は力を抜く。左手は、ネックの裏に親指の腹を当てて、4本の指で弦を押さえます。
文字で書くと簡単そうですが、実際にやってみると「こんな姿勢で弾けるの?」と感じる方がほとんどです。最初は違和感があって当然です。
当教室では、体験レッスンの最初に必ず構え方を確認します。独学で2〜3年やってきた方が入会される時も、構え方から見直すことがよくあります。それくらい、基本は大事なのです。
チューニング:最初の関門
構え方の次に覚えてほしいのがチューニングです。
ギターは弾く前に必ずチューニングをする楽器です。ピアノや管楽器と違って、弾くたびに音程が変わるので、毎回合わせる必要があります。最初は時間がかかっても大丈夫です。慣れれば30秒で終わる作業になります。
6E-A-D-G-B-Eの順
6本の弦を、太い方から6E(ミ)、5A(ラ)、4D(レ)、3G(ソ)、2B(シ)、1E(ミ)に合わせます。この並びは覚えなくても、チューナーが教えてくれるので大丈夫です。
慣れてくると、6弦と1弦が同じ「ミ」の音(2オクターブ違い)で、ギター全体がミで挟まれている——といった構造も見えてきて、楽器への愛着が湧いてきます。
クリップチューナーがおすすめ
最近のクリップチューナーは、ヘッドに挟むだけで音程を数字と針で表示してくれます。2,000円前後で買えるので、ギターと一緒に揃えておいてください。
スマートフォンのアプリにもチューナー機能がありますが、周囲の雑音を拾ってしまうので、初心者のうちはクリップ式のほうが確実です。
初心者が陥りやすい「オクターブ違い」
初心者の方がよくやってしまう失敗は、オクターブ違いで合わせてしまうことです。本来の音より1オクターブ低かったり高かったりしても、チューナーは「合っている」と表示してしまうことがあります。
どの弦もだいたい同じくらいの張りになっていれば、まず間違いありません。力が必要なほど強く巻いていたら、オクターブ高く合わせすぎている可能性があります。逆にブラブラしていたら、低すぎです。
最初はレッスンで一緒に合わせることから始めます。一度感覚をつかめば、あとは自分でできるようになります。
右手の基本:指の名前と奏法
クラシックギターは、右手の指で弦をはじいて音を出します。ピックは使いません。
指の名前:p / i / m / a
右手の指には、それぞれ記号があります。
- 親指:p(プルガール)
- 人差し指:i(インディセ)
- 中指:m(メディオ)
- 薬指:a(アヌラール)
スペイン語の頭文字です。クラシックギターがスペインで発達した楽器なので、用語の多くがスペイン語になっています。
楽譜にこの記号が書かれていて、「どの指で弾くか」を指示します。覚えるのは難しくありません。レッスンで繰り返し出てくるので、自然と身につきます。
小指はクラシックギターでは基本的に使いません。これは楽器としての昔からの決まりごとのようなものです。
アポヤンド奏法:メロディをはっきり鳴らす
奏法には大きく2種類あります。アポヤンドとアルアイレです。
アポヤンドは、弾いた指を次の弦に寄りかからせて止める奏法です。「アポヤンド(apoyando)」はスペイン語で「もたれかかる」という意味です。
音がしっかり出るので、メロディラインを弾くときに使います。最初のうちは、このアポヤンド奏法で「一本の音をきれいに鳴らす」練習を繰り返すのが基本です。
ここをおろそかにすると、いくら難しい曲に挑戦しても音が痩せてしまいます。地味に感じる練習ですが、あとあとの演奏の質に直結します。
アルアイレ奏法:空中に逃がす
アルアイレは、弾いた指を空中に逃がす奏法です。「アルアイレ(al aire)」はスペイン語で「空中で」という意味です。
和音やアルペジオ(分散和音)で使います。複数の弦を続けて弾くときに、次の弦に指が当たってしまうと音が止まってしまうので、空中に逃がすわけです。
文字で読むとややこしく感じるかもしれませんが、実際にレッスンで教わると、1回で感覚はつかめます。最初はアポヤンドから練習して、音をしっかり鳴らせるようにするのが基本です。
爪の手入れについて
クラシックギターでは、右手の爪を伸ばして弦をはじくのが一般的です。指の腹と爪の両方で弦を捉えることで、音に芯と艶が出ます。
爪の長さは、手のひら側から見て少し出るくらい。形は、弦に引っかからないように少しカーブをつけて整えます。男性の生徒さんの中には、「爪を伸ばすのは抵抗があって……」という方もいらっしゃいますが、右手の爪だけですので、ふだんの生活ではほとんど見た目に影響しません。
ただ、最初からここを気にしすぎなくて大丈夫です。爪の整え方もレッスンでお伝えできますし、最初は指の腹だけで弾いても問題ありません。慣れてきてから、少しずつ爪を使う練習に入ります。
左手の基本:押さえ方のコツ
左手は、ネックの裏に親指を置いて、4本の指で弦を押さえます。
指番号:1-2-3-4
指には番号がついています。
- 人差し指:1
- 中指:2
- 薬指:3
- 小指:4
楽譜には、この番号で「どの指で押さえるか」が書かれています。右手の記号(p/i/m/a)と、左手の番号(1/2/3/4)。この2つが楽譜に書かれていると思ってください。
慣れないうちは、どちらがどっちの指か混乱しますが、これも数週間で自然に見えるようになります。
フレットの真横を押さえる
押さえ方のコツは、指を立てて、フレットのすぐ横を押さえることです。
フレットの真ん中あたりを押さえると、音がビビる(ビーンと振動音が混じる)ことがあります。逆にフレットの真上を押さえると、音が詰まります。「フレットのすぐ左横」を意識してみてください。
「いくら押さえても音がきれいに鳴らない」という悩みのほとんどは、この押さえる位置のずれが原因です。
指を立てる
指を寝かせてしまうと、隣の弦に触れてしまい、音が濁ります。特に隣の弦を鳴らしたいときに、指が寝ていると「鳴ってほしい弦が鳴らない」という現象が起きます。
指を立てるためには、親指の位置も大事です。ネックの裏の、ちょうど真ん中くらいに親指の腹を当てると、4本の指が自然に立ちます。親指が上にはみ出してしまうと、他の指が寝てしまう——というように、左手全体がつながっています。
最初は指が痛くなりますが、1〜2週間で慣れます。皮が少し硬くなるので、それ以降は気にならなくなります。
セーハ(バレー)は独学の壁
初心者の方が最初に苦労するのは、セーハ(バレー)という押さえ方です。人差し指1本で、複数の弦をまとめて押さえる技法です。Fコードなどで使います。
セーハは多くの方がつまずくポイントですが、これも正しいフォームを教えてもらえば乗り越えられます。力で押さえ込もうとすると逆にうまくいかない技法で、ここは独学の限界を感じやすい部分でもあります。
コツは、人差し指を「弦に垂直に置く」のではなく、少し横に傾けて、側面の硬い部分で押さえること。そして、親指を使って「ネックを挟む」ように力を分散させること。
文章だけではなかなか伝わらない部分なので、うまくいかないときは、ぜひ体験レッスンでフォームを見せてください。一度「押さえられた」という感覚を知ると、あとは自分で再現できるようになります。
楽譜が読めなくても大丈夫
「クラシックギターって、楽譜が読めないと無理ですよね?」
体験レッスンで一番多く聞かれる質問です。
答えは、大丈夫です。
読めない状態で来てくださる方がほとんどですし、当教室ではその前提でレッスンを進めます。楽譜の読み方は、基本から丁寧にお教えします。むしろ、「楽譜が読めないからクラシックギターは無理」と諦めてほしくなくて、この記事を書いているようなところもあります。
五線譜とTAB譜の違い
クラシックギターで使う楽譜は、五線譜です。一般的な楽譜ですね。ポップスでよく使われるTAB譜(タブ譜)とは違います。
TAB譜は弦とフレットを数字で示すもので、直感的でわかりやすいです。「3弦の2フレットを人差し指で押さえて」と書いてあるようなものなので、読み方を知らなくても弾けます。
最初はTAB譜から入ってもOK
最初はTAB譜から入っても、まったく問題ありません。ギターを弾く喜びを先に味わってもらって、あとから五線譜に移っていく方が、続けやすいこともあります。
ただ、クラシックギターの本格的なレパートリーを弾こうと思うと、五線譜が必要になります。TAB譜だけでは表現できない情報(音の長さや表情の付け方など)が、五線譜にはたくさん書かれているからです。音の強弱、テンポの揺らぎ、どの音を主役として聞かせたいか——こうした演奏の命とも言える情報は、五線譜の中にあります。
3ヶ月でなんとなく読めるようになる
私の教室では、早ければ3ヶ月ほどで五線譜がなんとなく読めるようになります。1年続ければ、初見(初めて見た楽譜をその場で弾くこと)もできるようになります。
大事なのは、一度にすべてを覚えようとしないこと。開放弦の位置から始めて、1フレットの音、2フレットの音——と少しずつ範囲を広げていけば、階段を登るように自然に読めるようになります。
4年間、他の教室に通っていた生徒さんが、「五線譜も読めず、手の動かし方もわからない状態」で当教室に来られたことがあります。基礎からやり直して、今はアンリ・マンシーニの「太陽がいっぱい」の独奏に取り組んでいらっしゃいます。
「ギターが楽しくなりました。どうやって練習すればいいかもわかるようになって、嬉しいです」と言っていただけたときは、本当にうれしかったです。
楽譜は、語学と似ているところがあります。最初はまったくわからない記号の羅列に見えるものが、少しずつ「これは読める」という部分が増えていく。ある日ふと、楽譜を見ただけでメロディが頭の中で鳴るようになる——そんな瞬間が、必ず来ます。
初心者が最初に取り組む曲
ここは多くの方が誤解しているポイントです。
「禁じられた遊び」「アルハンブラの思い出」——クラシックギターと聞いて思い浮かぶ名曲ですよね。でも、この2曲は初心者がいきなり弾ける曲ではありません。
「禁じられた遊び」の後半や「アルハンブラの思い出」には、トレモロというかなり高度な技法が使われています。右手の薬指・中指・人差し指で同じ弦を素早く連打する技法で、これは何年も練習しないと安定しません。
最初は「子供向けの教材」が最適
最初に取り組むべきは、もっとずっと簡単な曲です。
私がおすすめするのは、子供向けの教材に載っているような曲です。
「え、子供向け?」と戸惑われる方もいらっしゃいますが、これが一番効率が良いのです。大人でも最初は指が動かないし、楽譜も読めない状態です。それは子供と同じです。
子供向けの教材には、「開放弦だけで弾ける曲」「1フレットだけで弾ける曲」「左手を固定したまま弾ける曲」といった、段階を踏んだ簡単な曲がたくさん用意されています。こうした曲から始めると、確実に指と耳が育っていきます。
大人だからといって急に難しい曲が弾けるわけではありません。急がば回れ、です。簡単な曲でも、きちんと弾けば美しいメロディになります。そして、きちんと弾くこと自体が、実はかなり難しいのです。
カーノ・カルリの練習曲
具体的には、カーノやカルリといった19世紀の作曲家が書いた、子供や初心者向けの短い練習曲です。
カーノ(Federico Cano)やカルリ(Ferdinando Carulli)の練習曲は、どれもメロディが美しくて、「練習曲」という言葉から連想される退屈さはありません。短い曲の中に、クラシックギターの基礎がしっかり詰まっています。
もう少し進むと、ソル(Fernando Sor)の練習曲が出てきます。ソルは「ギターのベートーヴェン」とも呼ばれる作曲家で、練習曲と名のつくものでも、コンサートで演奏されるレベルの美しい曲がたくさんあります。
なぜ「子供向け」が大人にも最適なのか
一つ言い添えておきたいのは、「子供向けの教材」といっても、中身は決してジャンルとして子供っぽいものばかりではないということです。
クラシックの有名な旋律のやさしいアレンジ、民謡の編曲、短いながらも情感をこめて弾ける曲——こうした曲が、技術的に難しくなくて美しい、大人の生徒さんでも「弾くのが楽しみになる曲」として受け入れられています。
「遠回り」に見える道の意味
禁じられた遊びやアルハンブラをいきなり弾かないのは、「技術的に難しい」だけが理由ではありません。
簡単な曲を丁寧に弾くことで、音をよく聴く耳や、指をコントロールする感覚が育ちます。これらは、いくら指が器用に動いても、難しい曲にいきなり挑戦していては身につきません。
「この簡単な曲、聴いていてこんなに美しいんだ」と感じてもらえる演奏ができるようになると、ようやく次の段階に進む準備が整います。
ある生徒さんは、楽譜がまったく読めない状態で入会されました。最初は「ド」の位置を覚えるところから始めて、開放弦だけで弾ける短い曲、次に1弦だけを使う曲、そして2弦を足した曲——というように、少しずつ音域を広げていきました。
1年後、その方はソル作曲の小さな練習曲を、楽譜を見ながら弾けるようになっていました。ご本人がびっくりされていたのが、今でも印象に残っています。
簡単な曲をバカにせず、きちんと弾けるようになる。これが遠回りに見えて、一番の近道です。
1日どれくらい練習すればいいのか
「毎日練習しないとダメですよね?」と、これもよく聞かれます。
結論から言うと、毎日30分できれば理想的です。ただし、できない日があっても問題ありません。
大事なのは「触れる習慣を切らさない」こと
大事なのは時間の長さではなく、ギターに触れる習慣を切らさないことです。5分でもいいので、ギターを手に取る日を作る。これだけで上達のペースが変わります。
社会人がギターを始める場合、仕事や家庭で忙しくて、毎日30分のまとまった時間を取るのは難しいことが多いです。当教室にも、自宅でほとんど練習できない社会人の生徒さんがたくさんいらっしゃいます。それでも、月2回のレッスンを続けている方は、確実に上達していきます。
「練習しなきゃ」が一番もったいない
逆に「練習しなきゃ」と自分を追い込みすぎて、それができない日に罪悪感を感じて、いつの間にかギターから離れてしまう——これが一番もったいないです。
「練習できなくても大丈夫です。とりあえずレッスンに来てください」——私はいつも生徒さんにこうお伝えしています。
ギターは、続けていればいつか必ず弾けるようになります。逆に言えば、やめなければ失敗はないのです。だから、練習のハードルを下げることは、上達のハードルを下げることと同じです。
「20時間弾くと慣れる」の目安
練習時間の目安で言うと、よく「20時間弾くとギターに慣れてくる」と言われます。1日30分なら40日、1日10分でも4ヶ月で到達する時間です。そう考えると、そんなに遠くないと感じませんか。
もちろん20時間でプロ並みに弾けるわけではありません。ただ、「ギターに触るのが自然になる」「指の動きに違和感がなくなる」——そういう最初の壁を越えるのに、これくらいの時間が目安になる、ということです。
最初の壁さえ越えてしまえば、あとは自分で「もう少し弾きたい」と思うようになります。義務感ではなく、楽しみとしてギターを手に取れるようになる——ここまで来れば、続けるのは難しくありません。
「週末まとめ」より「毎日1回」
もう少し具体的に言うと、「週末にまとめて3時間」と「毎日25分」、どちらが上達しやすいかというと、経験上後者です。なぼぶまとめて詰め込むよりも、毎日少しずつ繰り返すほうが、身体に定着しやすいからです。スポーツや語学と似ていますね。
もちろん、まとまった時間が取れるならそれに越したことはありません。ただ、忙しい日常の中で「とりあえずギターを抱き上げて、好きな曲を1回弾く」——それだけでも、確実に何かが積み上がっていきます。
クラシックギターは独学で弾けるのか
独学でも、弾けるようになる人はいます。
ただ、私の経験から言うと、独学で続けられる人には共通点があります。自分の演奏を客観的に聴ける耳を持っている方、音楽的な勘が良い方、そして何より、忍耐強く地道な練習を続けられる方です。
多くの方にとって、独学のハードルは高いと感じます。
独学の限界1:フォームの癖に自分では気づけない
一番の理由は、フォームの癖に自分では気づけないことです。
間違った構え方、指の使い方、力の入れ方で何ヶ月も練習していると、それが体に染みついてしまいます。あとから直すのは、ゼロから正しい形を覚えるよりずっと大変です。
「指は動くのに音がきれいに鳴らない」「セーハがどうしても押さえられない」——こうした悩みの多くは、フォームの問題です。本人は一生懸命練習しているのに、向かっている方向が少しだけずれている。自分では気づけないから、延々と同じ場所で足踏みしてしまいます。
独学の限界2:何を練習すればいいかわからない
もう一つは、何を練習すればいいかわからないことです。
教本はたくさんありますが、自分のレベルに合った曲を選び、つまずいた時にどう乗り越えるかを判断するのは、初心者には難しい。結果として、難しすぎる曲に挑戦しては挫折、を繰り返してしまう方が多いです。
独学で何年も続けてきた方が体験レッスンに来られて、「この曲が弾きたくて、ずっと練習しているんですが……」と見せてくれる楽譜が、その方のレベルより何段階も上——ということは珍しくありません。
教室で習うメリット
教室に通うメリットは、「今の自分に合ったこと」を教えてくれる人がいることです。レッスンでは、一人ひとりのペース、目標、つまずきポイントに合わせて進めます。独学との差はここに出ます。
例えば、同じ「セーハが押さえられない」という悩みでも、人によって原因は違います。親指の位置が高すぎる方、人差し指の角度が浅すぎる方、そもそも手首に力が入りすぎている方——レッスンではそれを見分けて、「この方にはこういう声かけが必要」と判断します。
独学では、この「調整」が難しいのです。本や動画は万人向けに作られていますから、自分の身体や感覚に合わせたアドバイスはそこには書いてありません。
独学か教室か、もう少し詳しく比較したい方は、失敗しないギター教室選び方の記事も参考にしてみてください。
挫折しないために知っておいてほしいこと
ギター全般に言えることですが、挫折しやすい時期があります。
挫折しやすいのは3ヶ月目
3ヶ月目です。
最初の1〜2ヶ月は新鮮さがあって楽しい。小さな成功体験が続きます。でも3ヶ月目あたりで、新鮮さが薄れてくるのに、まだ「1曲弾ける」レベルには達していない。この「伸びている実感がない時期」に、多くの人が離れてしまいます。
この壁を越えると一気に楽しくなる
ただ、この壁を越えると、ギターは一気に楽しくなります。指が動くようになり、楽譜も読めるようになり、簡単な曲が弾けるようになる——ここを経験すると、「続けてきてよかった」と心から思えます。
ギターが続かない人の特徴と、続けられる人の共通点については、別の記事で詳しくお話ししています。
当教室の退会率
挫折しそうになったら、ぜひ誰かに相談してみてください。教室に通っているなら先生に、そうでなければギター仲間や、ご家族でも構いません。
当教室の退会率についてお話ししておくと、約30名の生徒さんのうち、退会された方は2名だけです。1名は遠方の学校に通うことになった方、もう1名は家庭の事情でした。「ギターが嫌になった」という理由で辞められた方は、いません。
自慢したいわけではなくて、「ちゃんと続けられる環境があれば、挫折は防げる」ということをお伝えしたいだけです。続けるコツは、特別な才能や意志の強さではなく、ちょっとした工夫と環境にあります。
上達の道のり:1年後、3年後の目安
クラシックギターは、どのくらいで弾けるようになるのか。
目安はこうです。ギター初心者が1曲弾けるまでの期間についても別記事で詳しくお話ししていますので、合わせて読んでいただければと思います。
1〜3ヶ月目:基礎の習得期
楽譜の基本、右手の基本奏法、左手のフォームを身につける段階です。簡単なメロディが弾けるようになります。
「ド」から「ソ」までの音が読めて、開放弦を使った短い曲が弾ける——これがこの時期のゴールです。毎回のレッスンで新しいことを学ぶので、ワクワクする時期でもあります。
3〜6ヶ月目:右手と左手の独立に慣れる
右手と左手の独立に慣れてきます。2つの声部(メロディと伴奏)を同時に弾く曲に挑戦できるようになります。
「右手で伴奏を弾きながら、同時に左手でメロディを押さえる」——これができるようになると、クラシックギターらしい演奏の入口に立ったと言えます。
最初は頭が混乱しますが、繰り返し練習していると、ある日突然、指が勝手に動くようになります。「できなかったことが、できるようになる」瞬間が、一番うれしい時期かもしれません。
6ヶ月〜1年:初級の曲が楽しめる
初級の曲を楽譜を見ながら弾けるようになります。ソルやカルリの練習曲の中から、気に入った曲をいくつかレパートリーにできます。
「この曲弾きたい」と思ったら、自分で楽譜を探してチャレンジできる状態になります。ここまで来ると、ギターは「練習するもの」から「楽しむもの」に変わります。
1年後:初見の入口
初見(初めて見た楽譜をその場で弾くこと)が少しずつできるようになります。自分で楽譜を手に取って、好きな曲を選んで弾ける状態です。
1〜2年:表現の幅を広げる時期
1年を過ぎると、「音を出す」ことから「音楽を作る」ことに意識が向かいます。同じ曲でも、どこを強く弾くか、どこでテンポを揺らすか——そうした表情づけを考える余裕が出てきます。
この時期に取り組むのは、ソルの練習曲でも少し長めのもの、カルリのロンドなど、音楽的に聴かせどころのある曲です。人に聴いてもらうことを意識した演奏が、少しずつできるようになります。
2〜3年後:名曲への挑戦
「禁じられた遊び」「ソル月光」「タレガのラグリマ」といった、クラシックギターの定番曲に挑戦できるレベルに入ります。
「禁じられた遊び」の前半(アルペジオの部分)なら、1年半〜2年で弾けるようになる方が多いです。後半のトレモロが入る部分は、さらに時間がかかりますが、ここまで来た方にとっては「次の目標」として取り組みやすい課題です。
子供の頃からやっていたわけでもない、楽譜も読めなかった——そんな方が、3年後にはこうした名曲を人前で弾けるようになります。これは当教室で実際に起きていることです。
発表会という目標の力
当教室では年に1〜2回、生徒さんの発表会を開いています。参加は自由ですが、「半年後の発表会で1曲弾く」という目標があると、練習の質が変わります。
人前で弾くというのは、それだけで大きな経験です。緊張して失敗することもあります。でも、その失敗も含めて、自分の音楽になっていきます。
発表会を経験した生徒さんは、ほぼ例外なく「出てよかった」とおっしゃいます。時々「もう二度とやりたくない」と笑いながら言われる方もいますが、次の発表会にはまた参加されていたりするのが面白いところです。
螺旋階段モデル
クラシックギターの学習は、一直線には進みません。新しいことを学んだら、前に戻って復習し、また進む。螺旋階段のように、同じ場所を通っているように見えて、実は一段ずつ上がっているのです。基礎に戻るのは後退ではなく、深い理解への前進です。
数学で「足し算、引き算ができるようになって、それを合わせた応用問題をやり、掛け算・割り算を覚えて、また前に戻って総合問題に取り組む」——あの流れと同じです。行ったり来たりしているように見えて、着実に上に進んでいます。
72歳で当教室に入会された方が、楽譜もギターも初めての状態から1年通って、発表会でクラシックギターの独奏を披露されたことがあります。何歳からでも、弾けるようになります。
よくいただく質問(FAQ)
最後に、体験レッスンやメールでよくいただく質問と、その答えをまとめておきます。
Q. クラシックギターは独学でも弾けるようになりますか?
弾けるようになる方もいらっしゃいます。ただ、フォームの癖が自分では気づけないため、途中で伸び悩みになる方が多いのが実感です。最低でも最初の数ヶ月は、誰かに見てもらう機会を作ることをおすすめします。
Q. ギターは何割くらいの人が挫折しますか?
一般に「初心者の9割は1年以内に挫折する」とも言われますが、これは主に独学のケースです。教室で続ける方の割合はずっと高く、当教室ではこれまでの退会が約30名のうち2名、しかもいずれもギターが嫌になったためではありませんでした。
Q. 練習で一番大事なことは何ですか?
時間の長さよりも、触れ続けることです。5分でもいいので、ギターを手に取る日を切らさないこと。もう一つ大切なのは「簡単な曲を丁寧に弾く」ことです。難しい曲を雑に弾くより、簡単な曲をきれいに弾くほうが、遠回りに見えて上達は速いです。
Q. 1日どのくらい練習すればいいですか?
理想は30分ですが、できない日があっても大丈夫です。目安としては「20時間弾くとギターに慣れてくる」とよく言われます。1日10分でも4ヶ月で到達する時間ですので、そんなに遠くはありません。
Q. 大人になってから始めても遅くないですか?
遅くありません。当教室には60代、70代で始められた生徒さんもいらっしゃいます。むしろ、大人は「自分がなぜ弾きたいか」をできるので、子供よりも長続きしやすい側面があります。
Q. 男性で、右手の爪を伸ばすのに抵抗があります。
最初は爪を使わず、指の腹だけで弾いていただいて構いません。薬指の爪だけ少し伸ばす——といった段階的な進め方もできます。熱意を持って他人の前で弾くようになる様子を見ると、自分も爪を伸ばしてみたいと思う方が多いです。
新宿エリアで通えるクラシックギター教室を探している方へ
ここまで読んでくださった方の中には、「独学でやってみようかな」と思っている方も、「やっぱり教室に通おうかな」と考えている方もいらっしゃると思います。
どちらが正解ということはありません。ご自身の状況に合わせて選んでください。
ただ、もし教室に通うことを検討されているなら、新宿 ギター教室の選択肢の一つに、西新宿ギター教室も入れていただければうれしいです。
当教室は、西新宿5丁目駅から徒歩30秒。完全個人レッスンで、クラシックギター・アコースティックギター・ウクレレに対応しています。生徒さんの半数はクラシックギターを学ばれていて、楽譜が読めない初心者の方も、他の教室から移ってこられた方も、マイペースで通っていただいています。
60分の無料体験レッスンを行っています。ギターをお持ちでない方も、手ぶらでお越しください。楽器の選び方からご相談できます。
「自分にもできそうだ」と感じていただけるような、そんな時間にできればと思っています。